FX取引:中上級レベル

中上級
Trading101
Trading101
Lectures 20 レッスン
Duration 20 時間

フォワードガイダンス原理の説明

中央銀行およびFX取引との関わりを理解できることは、取引の成功において非常に大切です。経済のために中央銀行が金融政策を実施し、その結果、通貨高や通貨安となることは、誰もが知っています。

しかし、中央銀行がなぜそれほどまでに、市場参加者にわざわざ自己の意志を伝えようとしているのかは、ほとんどの人が知りません。その答えは、21世紀になって登場した自動取引と、フォワードガイダンスと呼ばれる伝達ツールにあります。

自動取引は、個人トレーダーが市場についていくのをますます難しくします。もちろん、個人トレーダーも自分のエキスパートアドバイザー(取引ロボット)を構築することができます。

例えばMT4 プラットフォームでは、指標とロボットを構築・テストするための素晴らしいツールを提供しています。加えて、それらをデモ口座とリアル口座の両方で運用することもできます。

しかし本当の試練は、クオンツ業界、または高頻度取引業界によってもたらされます。

こういった取引アルゴリズム、またはスーパーコンピューターは非常に速くてパワフルなので、全金融システムを追い込むことができます。そのため、中央銀行は金融政策に取り組む際、または金融メディア報道官の質問に答える際には、極度の警戒措置を取ります。

すでにお気づきかもしれませんが、今日の世界で最も大切な出来事は、週末にかけて起こります。戦争、投票、選挙などは週末にかけて始まりますので、月曜に市場が開くまで、最終的な市場伝播は抑え込まれている可能性があります。

スイス国立銀行(SNB)がEUR/CHFのペグレートを1.20から落としたときは、取引週の間(木曜日)でした。その後に起こったのはまさに騒乱であり、FX取引業界は、個人取引が大衆に利用可能になって以来、最大の一撃に苦しみました。

この失敗の主な原因は、コミュニケーションの欠如でした。市場は驚きに包まれ、発表がでた時には、そこに市場はもう存在していませんでした。

言い換えると、トレーダーがEUR/CHFの長期取引でストップロス注文をかけていたとしても、市場がなかったために、ブローカーやロボットはそれを遂行できなかったのです。これはおそらく、現代の銀行取引業務史上、最大級のコミュニケーションの失敗でした。

金融政策ツールとしてのフォワードガイダンス

信じようと信じまいと、フォワードガイダンスとは金融政策ツールです。中央銀行の決定と全く同じように、この市場とのコミュニケーション方法も大きな変動を創り出します。

フォワードガイダンス原理の下では、中央銀行は市場参加者に計画を説明するだけでなく、決定にいたるまでに必要だった状況の手がかりも提供します。この素晴らしい例が米国です。

米国経済が鈍化した際、連邦準備制度(Fed)は金利をほぼゼロに引き下げました。住宅バブルが最大級の金融危機を招いたことが比較的最近あったため、それは論理的な金融政策でした。

しかし後にそれが証明したように、金利をゼロに引き下げるだけでは充分ではありませんでした。経済状態が良くならなかっただけでなく、デフレ危機(インフレがゼロ以下の水準に下降)の兆候を見せ始めたからです。

よって、さらなる策が必要でした。そして、連邦準備制度は策を講じました。

連邦準備制度は、量的緩和(QE、Quantitative Easing)と呼ばれるプロセスの中で、米国政府から直接債券を買いました。そのことは発表されましたが、そのプロセスを止めるのに必要な条件と状況とともに伝えられました。

その最終段階のQE4は、特定の失業率水準を基にした基準値とともに発表されました。言い換えると、連邦準備制度は市場に、失業率が望ましい水準に届くまで量的緩和政策を続けると伝えたのです。

突如として、報道に視線が集中しました。雇用データがその翌月以降に発表されると、失業率がターゲット水準に近づくか、そうでないかによって米ドルが上下に変動しました。

市場ガイドツールとしての記者会見

金融市場が相互に関連しあうほど、中央銀行からのコミュニケーションはさらに明確となる必要になります。例えば米国の連邦準備制度は、世界中の全ての市場と国で効果を感じることなく、フェデラルファンドレートをただ上げることはできません。

ですから金融市場に向けて、金融政策を変えるためには、どんな計画、どんな政策で、どんな見込みがあり、どのような条件が必要なのか、などを伝えて説明することが、中央銀行の日々の活動の一部なのです。

世界中すべての中央銀行が、記者会見を行います。記者会見の案は、なぜ中央銀行がそういった決定をしたかという説明と、メディア報道官からの質問に答えるためです。

おそらく、フォワードガイダンス原理の重要性を示す典型的な例が米国です。数年前まで、連邦準備制度は金利決定後に記者会見を行っていませんでした。

Fedはただ6週間ごとに、連邦市場公開委員会(FOMC、Federal Open Market Committee)の声明を発行し、その声明がフォワードガイダンスのすべてでした。しかし、それだけでは充分ではありませんでした。

市場と市場参加者が変化したため、状況も変化しました。よって、連邦準備制度も策を講じ、四半期に一度の記者会見を導入することにしたのです。

記者会見が始まってわずか30分後に、連邦市場公開委員会の声明は今も発行されています。 理事による来年度の見込みとともに、議長が声明を読み上げ、金融報道機関の担当者からの質疑に答えます。

FOMC声明中よりも、記者会見中に、FX取引における価格変動が大きくなったことはありません。言い換えると、記者会見が始まるころには主要な決定事項はすでに古いニュースであすが、市場参加者はFX取引の見込みへの重視を選ぶということです。

記者会見が導入されて以来、連邦準備制度が、その後、記者会見を行わずに、フェデラルファンドレートを変更したことは一度もありません。よって経験則では、もし連邦準備制度がレートを変える場合には、記者会見後の会議が終わってからになります。この方法で、連邦準備制度は金融市場がメッセージを確実に正しく理解するようにしています。

そうでなければ、フォワードガイダンス原理は理事のスピーチで強化されていることになります。取引月間または2つの中央銀行会議の間に、理事は通常の公式行事として出席します。

テレビのインタビュー、新聞記事、特定のイベントにおける基調演説などはすべて、フォワードガイダンス原理の一部です。市場参加者がメッセージを誤解すれば、中央銀行総裁がスポークスマンを介して登場し、その報道を否定または確定します。

FX取引市場でわずか6%しか占めていない個人トレーダーは、市場参加者にカウントしないでください。そのかわり、商業銀行、ヘッジファンドや他の大手投資家、FXブローカーや市場を動かす存在としての中央銀行も市場参加者だと考えてください。

例として、最近のニュースでは欧州中央銀行(ECB)が、市場が信じているよりも早いタイミングで金利を上げるという報道がありました。役員の一人であるオーストリアの官僚がインタビューに答え、欧州中央銀行が間もなく金利を上げ、そうすることに何の問題もないと主張しました。

その結果、高金利は通貨にとって魅力的なため、EUR/USDと他のユーロ通貨ペアの価格が跳ね上がりました。しかし数時間後に、欧州中央銀行が、それは欧州中央銀行の見方ではなく、たった一人の役員の見解に過ぎないとの声明を出しました。よってユーロは元のブレイクポイントに立ち戻ったのです。

結論

フォワードガイダンス原理は、FX取引で重要な役割を果たします。市場参加者が中央銀行の動向を知るだけでなく、なぜそのような政策を打ち出したかも知ることができるからです。

市場と市場参加者は変化しているため、フォワードガイダンス原理の変化も探ってください。今日の金融政策と使用ツールは、数十年前に比べると非常に異なるものです。

中央銀行がやろうとしていることは、将来の金利水準に明確な見地を提供することです。フォワードガイダンス原理を駆使して、市場の不快な反応を避ける力を得るのです。